■遺産分けをめぐる相続人間の争いの具体例
遺言書がない場合には,共同相続人全員で話し合い,遺産をどのように分けるか決めることになります。
この話し合いを「遺産分割協議」と言います。
そして,この協議で決まった事柄を書面に書いて,共同相続人全員が署名または記名捺印して,後日の証拠としたものを「遺産分割協議書」と言います。
しかし,
1.年老いた親を長年にわたって世話してきた長女が,平等に分けるという他の兄弟と財産分けで争っている場合
2.親の財産の大部分が土地であり,その売却でもめている場合
3.遺産分けで平等に共有した土地の処理が進まず,分筆も売却価格も折り合わず,解決が出来ない場合,など
法定相続分による遺産分けでも,それまでは仲の良かった相続人間においてさえ,トラブルが生じます。
このことを考慮すると,遺言をしておいたほうが賢明です。
■遺言が必要な場合
1.自己の財産を取得させたいが,相続分がない人がいる場合
・妻が,内縁の妻であって,戸籍上は他人である場合
・老後の世話をしてくれる長男の嫁にも,自己の財産の一部をあげたい場合
・世話になった人に自己の財産の全部または一部をあげたい場合,など
2.法定相続分による相続に異論のある場合
・子供がいないが,妻に自己の財産の全部を相続させたい場合
・子供の中に法定相続分より多くの自己の財産を相続させたい子がいる場合
・子供の中に自己の財産を相続させたくない子がいる場合,など
1や2の場合には,遺言が必要となります。
■自筆証書遺言,秘密証書遺言,公正証書遺言
1.自筆証書遺言とは?
財産目録を除く全文と日付および氏名を自書し,押印する方法によってする遺言。
ただし,家庭裁判所の検認が必要(検認とは,遺言の存在の確認手続。検認しても,遺言書の内容の一部が無効であれば,その部分に関しては無効)。
<自筆証書遺言の長所>
誰にも知られずに作成できる。
<自筆証書遺言の短所>
方式の不備や内容が不明確になりがちであって,後日トラブルが起きやすく、また,偽・変造や隠匿がされやすい。
2.秘密証書遺言とは?
代筆やワープロなどによる作成も可能で, 公証役場にて,公証人1人,証人2人以上の立ち会いのもとに,遺言書の入った封書を提出し,自己が遺言者であることを申述することによってする遺言。
家庭裁判所の検認が必要。
<秘密証書遺言の長所>
遺言の内容を秘密にでき,また,自筆証書遺言に比較して,変造される危険が少ない。
<秘密証書遺言の短所>
内容を秘密にできる,というほぼ唯一のメリットを除けば,他の方式と比べて利点があるとは言いがたい(公証役場に行き,2人以上の証人を手配する手間をかけても,なお,無効になる可能性が残っている)。
3.公正証書遺言とは?
公証人が,遺言者から遺言の趣旨の口述をもとに,遺言書を作成し,その遺言書の原本を公証人が保管するという方法によってする遺言。
<公正証書遺言の長所>
自筆証書遺言に比べて無効と主張されるおそれが少なく,検認が不要で,保管が確実(保管期間は原則20年)。
<公正証書遺言の短所>
若干の費用がかかります。
↓
公正証書作成の手数料等は,公証人手数料令により,次のように定められています。
目的の価額 | 手 数 料 |
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
3億円まで,43,000円に5,000万円ごとに13,000円加算 | |
10億円まで,95,000円に5,000万円ごとに11,000円加算 | |
10億円超は,24万9,000円に5,000万円ごとに 8,000円加算 |
遺言の場合は,相続人,受遺者毎に価額を算定して合算。不動産は,固定資産評価額を基準に評価。
相続,遺贈額合計が1億円に満たないときは,11,000円を加算。
遺言者が病気等で公証役場に出向くことができない場合には、公証人が出張して遺言公正証書を作成しますが、この場合の手数料は、遺言加算を除いた目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料となる場合があり(病床執務加算がされる場合です。)、これに、遺言加算手数料を加えます。この他に、旅費(実費)、日当(1日2万円、4時間まで1万円)が必要になります。
作成された遺言公正証書の原本は、公証人が保管しますが、保管のための手数料は不要です。
■遺言執行
遺言執行者とは?
遺言の執行に必要な事務の一切を任された人。
遺言は,その内容によって,執行を必要とするものが大半です。
たとえば,特定物の遺贈の場合には,その引渡や登記の手続が必要です。
遺言執行は,通常は相続人などがします。
しかし,相続人が多数いる場合,特に相続人に不利な内容の遺言の場合には,遺言の執行がうまく行かないのが通常です。
そこで,遺言執行者が必要となります。
そのためには,遺言書の中で遺言執行者を指定しておくべきです。
なお,遺言執行者としての報酬は,公正・中立な家庭裁判所の審判によって決めてもら
うこともできます。